純情倶楽部 夏休み、六人はやはり暇なので、とある温泉に来ていた。 その夜、女性陣と別れて部屋に戻った男三人の間に、衝撃の事実が発覚する――。 「……オレさ、前から聞きたいことがあったんだよな」 「なんですか改まって」 「魅録、目が据わってるよ〜」 「お前らよぉ」 「はい」 「なに?」 「……キス、したことあるか?」 「ないです!」きっぱり。 「えっ!……実は、僕もないんだ……」 「そ、そうかぁ。オレもないんだよ」 「へえ、そうなんですか。これは奇遇ですね」 「じゃあ、僕たちキス未経験者三人組だね!」 「純情倶楽部とでも、名づけましょうか」 「それ、いい!賛成!」 「なんだよ、それ。超カッコわりぃ」 「よおし!純情倶楽部結成だー!」 「早速、結成書を書きましょう」 「おいおい!冗談ばっかし〜」 「冗談じゃあ、ありませんよ」 「そうだよ!僕たち、親友だろ!?もっと絆を深めようじゃないか!!」 「純情倶楽部として……か?」 「そうです、我ら聖プレ純情倶楽部ですよ!……ふっ……くっくっく……」 「てめえ、なに笑ってんだよ?」 「いや、あまりの嬉しさに、思わず笑いが込み上げて」 「本当に笑うほど喜ばしいことだ!そうだ、せっかくだから純情倶楽部のテーマソングを 作ろうか!」 「嫌だね、そんなの。つか、オレは純情倶楽部なんてものに入りたくない」 「駄目です。もう魅録は純情倶楽部部長に決定しました」 「なんでだよッ!!」 「多数決ですよ。魅録が部長がいいと思う人!はい!」 「は〜い!」 「ざけんな!勝手に決めんな!」 「……魅録、僕たちを裏切るんですか」 「そうとも、魅録!僕たちは三人で一つだよ!誰一人として欠けたら、純情倶楽部とし て成立しないよ」 「これぞ、三位一体」 「キスしたことないヤツ三位一体なんて、気持ち悪いってえの」 「それより、魅録。テーマソングを作ってくださいよ」 「なんで、オレなんだよ!」 「僕たちの中で、音楽の素養があるのなんて、魅録だけじゃないか」 「そうは言っても、俺はロックしかやらねえし」 「いーじゃないですか、ロックな純情倶楽部」 「ロックなのに、純情ってとこがカッコ良いよねー……魅録みたいで」 「そ、そうか?」 「僕たちが歌詞を書きますから、魅録はそれに曲をつけてくださいよ」 「ちっ、しかたねえ奴らだなあ!付き合ってやるか」 + + + 「歌詞が出来ました!我ながら、最高の出来です。ね、美童」 「うん。もう松本隆もびっくりのリリカルな世界を表現できたよね!」 「て、どんな世界だよ。想像したくねーな。ま、とにかく聞かせてくれよ」 「それじゃあ、読みますよ。ぼ、ぼ、ぼくらは純情探偵団」 「たんていだん♪……って、名前変わってるじゃねえかよッ!」 「ちょっと字数が合わなくて。気にしないでください。では、続きは美童で」 「では。男の純情、バラの色♪キッスに餓える青年が♪朝焼け空にこだまする〜♪」 「なんか、どっかで聞いたことあるなあ〜ていうか、これ替え歌だし!!歌詞、意味わか んねえし!青年が朝焼け空にこだまする、ってどういう状況だよ!!」 「前衛的な世界を目指したつもりだったんですが」 「魅録には、この高尚な芸術世界は理解できないみたいだね」 「理解したくねえし」 「よし、これで純情倶楽部の部歌はできましたね。次は部則を決めましょう」 「部則、その一。部員は二十歳まで接吻するなかれ。……とかかな?」 「それ、いい。決まりです!」 「だから、勝手に決めんなッ!言っておくけどなあ、俺は二十歳までにはキスくらいは 済ませるつもりだぜ!?」 「ちょっと待ってくださいよ、魅録」 「約束が違うじゃないか。僕たち、初キスは二十歳まで取っておこうって言ってたのに」 「言ってねえから!そんな気持ち悪い約束してねえから!!」 「そうは言うけど、魅録。相手はいるんですか?」 「うっ。い、いるさあ!キスの相手くらい、うじゃうじゃ」 「えーっ、本当に?魅録って、すごいなあ!」 「そういうお前らだって、相当モテるだろうが。特に美童はよ」 「僕に寄って来るのは、みんな遊び目的のコばっかりだからね。本当の愛は中々見つ からないよ……。ファーストキスは、ファーストラブのコとしたいもんね、やっぱり!」 「そうですよね。僕だって、初めてのキスは山奥にある海辺の白いペンションで……」 「山奥にある海辺の白いペンションって、どんなんだよ!……ちっくしょお!お前らには 付き合いきれねえ!もう、オレは退部させてもらう!!」 「それは許されません、魅録!」 「なんでだよ!!」 「部則、その四。当倶楽部の入退部は、キス経験の有無に拠る。魅録、君がこの部か ら退部するには、キスを経験するしかないんだよ!!」 「な、なんだとおおお!!じゃあ、オレはこのまま純情倶楽部にいるしかねえってのか」 「そのようですな、魅録。いいじゃないですか、今夜は純情三人衆で飲み明かしましょう!」 「そうだね、よし乾杯しよう!さあ魅録、ブランデーグラスを持って」 「ガウンを着て」 「ロッキングチェアーに座って」 「軽くグラスを揺らして」 「膝に猫を抱いて」 「って、注文多すぎだろッ!どこのダンディなオヤジなんだ、これは!?」 「よっ、魅録、カッコいい」 「惚れ直しちゃうね」 「……わあったよ。……オレも男だ、潔く乾杯してやろうじゃねえか!」 「何に乾杯しましょうか?」 「こんなのはどうかな。……まだ見ぬ僕たちのファーストキスの相手に!」 「乾杯!」 「……カンパイ……」 + + + 「……また、アイツらギャーギャー騒いでるわよ」 「主に騒いでるのは、いつも魅録ですけれど」 「どうせ、二人にからかわれてるんだろ」 「魅録って、純情だから」 「かわいそー」 「ですわねえ」 おしまい BACK 会話劇をやってみよう!と思って書き始めたら、あらまあ、ギャグになってしまったよ。 魅録ファン(このサイト見てる人にいるのだろーか…)の方は、ゴメンナサイ。私の書く魅録 はいつもこんなんです。 |