妄想@魅録



 今日は雨の日曜日。友人との約束もなく、かといって一人で外出する気にもなれない。
 オレは頭の下にクッションを当てて、なにをするでもなく天井を見つめていた――。
 例えば、オレと野梨子が幼馴染だったら、どうなるだろう?

「魅録、早くしないと遅刻しますわよ!」
「おう、今行くって!」
 寒空の下、オレの家の前で待ってくれている野梨子の細い指は赤く染まっている。
「悪ぃ、悪ぃ。遅くなっちまって」
「もう、魅録のせいで、手がかじかんでしまいましたわ」
 そう拗ねたように言う野梨子の手を、オレはそっと包み込む。
「じゃあ、オレが暖めてやるよ……」
「魅録……」
 見詰め合う二人。そして、お互いの顔が近づき……、

 はっ、いかんいかん。
 これはとっくに幼馴染の範疇を超えてるだろ。

 そうだな、例えば、オレと野梨子が文通友達だったとしたら――。

 ペンフレンドの二人のこーいは〜♪
 オレは然るヨーロッパの国に住む貴族の末裔で、大和撫子の野梨子と文通をしている。
「今度、親父の仕事の関係で、日本へ行くことになったんだ……と」
 そう書いた手紙を送ると、
「本当でいらっしゃいますか。お会いできるのを楽しみに待っています」
 という返事が来たりする。そして、オレ達は野梨子の馴染みのディスコで会う……って、
野梨子に馴染みのディスコがあるわけねえだろ!これは、ダメだ。

 あとは、例えば、オレと野梨子は喧嘩の現場でよく顔を合わせていたなんてな……。
 隣中のヤツラに、同級生が拉致られたと聞いて、町はずれにある荒れ野に行くと、そ
こにはすでに先客がいる。黒く艶やかな髪の、めっぽう喧嘩の強い少女だ。
「あ、おまえは聖プレの白鹿!!」
「あら、また会いましたわね」 
「どうして、おまえがここにいるんだよ?」
「この殿方が、うちの生徒からカツアゲをしていたというのを聞きまして、懲らしめに参り
ましたのよ」
 うふふ、と笑う野梨子の足元には、オレの獲物だったはずの男がのされて倒れている。
「おまえがやったのか!?」
「これくらい、どうってことありませんわよ」
 おほほほ……。野梨子の高笑いが空に響いた。って、ありえねえ!!こんなのオレの
野梨子じゃない!!
 ダメだ、ダメだ。

 これはどうだ?例えば、オレがすっごい頭が悪くて、野梨子にいつもお叱りを受けて
いたりして。
 オレの期末考査の成績表を見て、野梨子は眉をひそめる。
「……また、追試ですの?」
「す、すまん、野梨子。でも、オレだって頑張ったんだぜ」
「言い訳は聞きたくありませんわ。こうなったら、夏休み返上で、勉強会ですわね!」
「そ、そんな〜。オレ、夏休みはダチとツーリングに」
「お黙りなさい!!」
「ひ、ひえっ!!」
「まったく、魅録の脳の皺の少なさにも困ったものですわねぇ」
 ……。オレは悠理の辛さがよく分かった。
 あんな年中罵られているのに、よく清四郎と仲良く友達やってられるものだ。あいつ、
ひょっとしてマゾか?

 うーん他には、例えばオレと野梨子が……、

 外で雨が降りしきる中、魅録の妄想は果てしなく続くのであった。  


 おしまい。

 
 
 
初出:掲示板
 アホな内容だけど、コンパクトに纏めることができたので、結構好きな話です。



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