我が心のラブレター



 最近のあたしは、何かが変。誰もいないところで、ニヤけたり、しかめっつらをしてみ
たり、しょんぼりしたり。まるで自分自身を誤魔化すみたいに。
 
 だって、あいつの前では、どんな顔をしているのが正解なのか分からないんだもん。

 本当はもっとぺらぺらぺら〜って、色んな話をしたいのに、菊正宗の声が聞こえると、
途端に頭の中が真っ白になってしまう。
 そうなると、もうダメで。あたしはあいつの言葉に、ただ曖昧な返事をすることしかでき
なくなる。

「うん」
「へ〜」
「そうなんだ」
「あっそう」

 ……つまんない。


 ずーっと、つまんないつまんない、と思っているうちに季節は流れて……。
  
「悠理」
「なんだよ」
「……好きだ」
  
 絶対、あいつはあたしのことを嫌ってると思ってたのに。 
 あたしの何を好きになったの?と、聞くと、

 バカで、
 間抜けで、
 パーで、
 大飯食らいで、
 下品で、
 鳥頭で、
 ずぼらで、
 根性なしで、
 全く、どうしようもないところ。

 と、いう答えが帰ってきた。
 当然のようにあたしは怒ったけど、清四郎は、

「こんなに、完璧な愛の言葉は、世界中どこを探したって見つからない」

 と、言った。
 自信有りげな口調とは裏腹に、アナタ様の顔が恥ずかしそうに赤くなっていたのを、
ワタクシは良く覚えております。  
 
 
 初めてのキスも、初めての夜も、初めての別れも、清四郎が教えてくれた。


 その後、幾人かの男と恋愛紛いのことをしてみたけれど、だあれもあたしの欲しい言
葉はくれなかった。 
 みんな、あたしに夢を見てるだけ。あたしはそれに応えるだけ。

 そうして、初めて気がついた。 

 あいつが、あたしのことを本当に好きでいてくれてたんだって、ことに。


 ドラマみたいに、雨の中を走った。一秒過ぎるごとに、お前が知らない世界へ離れて
いくような気がして。



「わあ、米が降ってきた!!」
「ライスシャワーと言いなさい」
 呆れたように笑う清四郎の声が眩しい。
 
 ずっとずっと、この場所に戻りたかった。
 あの頃は、子供で、お互いの気持ちを疑うことしか知らなかった。
 今度は、きっとうまくやっていけるよね?


 車に乗り込んだら、ヴェールについた花弁を取りながら、清四郎が言った。
「すごく綺麗だ、悠理」
 必要以上に真顔なのは、照れ隠しのせいだと分かってる。
 あたしは、言ってやった。

「あたし、清四郎の」

 意地悪で、
 嫌味ったらしくて、
 冷たくて、
 プライドが高くて、
 子供のときは泣き虫で、
 年寄りくさくて、
 マニアックで、
 ちょっと変態っぽくて、 
 本当、どうしようもないところ。

「が、好きだな」
 どんな反応をするかな、と顔を覗き込むと、清四郎は苦笑いしていた。
「怒った?」
「いや、怒ってない」
「本当に?」
 と、聞き返したところで、肩を抱き寄せられた。 

「好きだよ」
「……あたしのどんなとこが好き?」
「悠理の……洗濯板みたいな胸と、イクときの顔が好きだ」
 
「バ、バッカヤローーー!!!」
 
 やっぱり、こいつ変態だ!!あー、もうヤダ。 

 振り上げたあたしの手を軽くかわして、ヤツはげらげら笑っている。こういうときだけ、
最高の笑顔を見せるのって、ヘン。

 
 ああ、でもどうしてこんなに傍にいたいんだろう。 
 変態で、スケベで、意地悪で、どうしようもない男だけど……。

 
 ――結局は、君の全部が好き。 It's all right!!





 


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