恋は大騒ぎ 2 「やーれやれ、酷い目にあったぜ」 「魅録のせいですよ。大体、僕たちのホ○疑惑だって、晴れてないじゃないですか!」 それどころか余計に酷くなった。 「悪かったよ」 と、魅録が適当に頭を下げたとき、目の前の生徒会室から、悠理が出てきた。途端、 清四郎の顔が強張る。 (……剣菱…悠理クン……?) そう。彼は未だに悠理のことを男と勘違いしていたのであった。アホです。 固まっている清四郎に、悠理は無邪気に近づいていく。 「お〜い清四郎、どうしたんだよ。顔、真っ青だぞ」 ぴたぴたと頬を叩かれて、清四郎はビクッとした。 「あ、いや、別に、その」 「なんだよ、ブツブツ言っちゃってさ。変な清四郎」 ふいっと背を向けて、魅録と話し始める悠理の背中を、清四郎は何とも言えない思い で見詰めた。 (変なのは、お前だ。なぜ……お前は女装など……) 清四郎の脳裏を、走馬灯のように過去の思い出が駆け巡る。 あの、幼稚舎で泣かされたときも、一緒にクラス委員をしたときも、予知夢に怯えてい るのを慰めたときも、お前は「男」だったというのか……! 清四郎はガックリと床に膝をついた。絶望という名の荒波が今、彼に押し寄せていた。 「せ、清四郎!どうしたんだよ!」 「うるさい」 心配そうに肩に手を掛けてくる悠理の指を、清四郎は邪険に振り払った。 唖然としている悠理を、立ち上がった彼は見詰めた。 「よくも……よくも、今まで騙してくれましたね」 「は?なに言ってんの?」 「とぼけるんじゃない!」 「とぼけてないもん!言ってる意味わかんないよぉ!」 「もう……おまえとは、今日限り縁を切らせてもらう!」 「そ、そ、そんな……」 可哀想な悠理。いきなり絶縁宣言されて、訳がわからない。 「どうしてだよ〜!」 「それは、お前の胸に聞いてみるんだな!まあ、胸なんか最初から無いだろうが」 下らないこと言っちゃった。だが、悠理は傷ついている。 「ひどいよ、清四郎……!あたしだって、胸くらいあるっつうの〜!」 「ひどいのは、どっちだ!人のことをずっと欺いておきながら……」 「あたし、欺いてなんかいないってばあ!!」 しつこい悠理にイラッと来た清四郎は、声を荒げた。 「欺いてるじゃないか!……お前、本当は男なんだろう!?」後ろで魅録が吹いてます。 「え……」絶句。 「男のくせに、そんなスカート履いて……」 清四郎は悠理から目を逸らした。 「一体、どういう事情があって、女装していたのかは知らないが、僕は傷つきましたよ」 「清四郎……」 「ずっと、悠理のことを女の子だと思っていたのに……。あまつさえ、一生守ってあげた いとすら思っていたのに」後ろで魅録が驚いてます。 伏せた清四郎の睫毛が微かに震えた。 「まさか、お前が男だったなんて……!」 「って、そんなわけあるか!」 とうとう我慢しきれなくなった悠理は、大声を上げた。 「清四郎のバカぁ!!」 「……どうせ、僕はバカですよ」 「そうじゃないってば!……もう知らん!!」 「いて!」 悠理は清四郎の頬をひっぱたくと、だだだだー!と廊下を走っていってしまった。 「……」 叩かれた頬を押さえて、清四郎は俯いた。 (悠理……) そのとき、背後で男が呟く声がした。 「清四郎……すまねぇ。さっきのは嘘だ」 「ウソ……とは?」 「悠理は、正真正銘、女だ。ていうか、男なわけねーだろ」 「……確かに」 振り向きざま、清四郎は魅録をグーで殴った。そのまま、悠理を追うべく、廊下を走り 出す。 ――僕は…僕は……なんという大馬鹿者なのだ!! 心無い友人(魅録)の言う事を真に受けて、本当に大事な人を傷つけてしまった……。 「この、愚か者めッ!!」 いきなり自分に一喝し出す生徒会長に、すれ違う生徒がビクビクしていることにも気 付かず、清四郎は校内を駆けずり回った。 だが、中々、悠理は見つからない。 「どこへ行ったんだ……」 ぶつくさ呟きながら、最後に向ったのは屋上だった。立ち入り禁止になってはいるが、 鍵は壊れていて、あまり素行の良くない生徒はよく出入りしている場所だった。 人気のない階段を上がって行き、扉を開けると、果たして悠理がいた。 「ここにいたのか」 強い風を頬に受けながら、フェンスの前に立っている悠理に近づくと、彼女の背中が ぴくりと動いた。 「さっきは、すまなかった。お前が男だなんて、とんでもない勘違いだった」 「……今更、遅いよ」 「怒るのも無理はない……」 清四郎は項垂れた。 振る舞いは男のようでも、そのことを密かに気にしていて、女らしくありたいという願望 を心の奥に抱いている。それが悠理だと、自分は知っていたのに。 言うべき言葉が見つからず、清四郎が黙っていると、目の前の悠理の肩が、小刻み に震えだした。 「……!」 慌てて、彼女の前に回って腕を掴む。覗き込んだ悠理の目からは、涙がぽろぽろと零 れていた。 清四郎の胸に鋭い痛みが走る。まさか、これほど傷つけていたとは思わなかった。 「悠理、ごめん!僕が悪かった……!」 「離せよっ!」 「嫌だ!」 悠理は泣いたままで、清四郎の手を振り解こうとする。だが、清四郎は彼女の腕から 手を離すことができなかった。どれだけ拒否されても、今は離してはいけない、そんな 気がしていた。 清四郎の返事に、悠理は顔を歪め、喚いた。 「どうして……。だって、あたしのことなんか男だとしか思ってないんだろ!?触るのも 嫌なくせに!!」 「そんな訳ない!」 宝石のような涙を一杯に浮かべて見上げてくる悠理を、どうして触るのも嫌だなんて 思えるだろう。 清四郎は、腕を掴んでいた指を滑らせ、彼女の細い指に絡ませた。動揺した悠理の 瞳から、また一粒雫が頬を伝うのを見届けると、彼は、その唇を奪った。 抵抗する体を、きつく抱き締める。その時初めて、自分が悠理に恋をしていることを、 清四郎は自覚した。 長い口付けを終えると、清四郎は悠理の耳元に顔を寄せた。 「……男なんて思ってません。間違いなく悠理は女です」当たり前である。 「せ、清四郎」 声を震わせながらも、悠理が自分から離れようとしないことに、清四郎は淡い期待を 抱く。 「勘違いしたのは、お前のことが……好きだからだ」 「うっそ……」 腕の中で身動ぎする悠理に、清四郎は自嘲めいた笑みを浮かべた。 「どうも僕は、お前に関しては平静を保てなくなるらしい」 ――昔っから、そうだった。着けなれたはずのポーカーフェイスを、難なく外すのは、 いつも悠理だった。 抱く腕に力を込める。 「……返事は?悠理……」 「返事は……」 と、悠理はいきなり清四郎の胸を押し返した。 「ノー、だ!!」 「な、なんですと!?」←WINちゃんか、お前は。 てっきり、もうイエスを貰えるものだと思っていた清四郎は、その場に立ち尽くした。 悠理はタタッと、下り階段への扉まで駆けて行き、こちらを振り向いた。 「お前とキスすると、動悸が激しくなって、心臓が痛くなるし、涙も出そうになるから、付 き合いたくなんかない!!」 「えっ、それって」 「べーっ、だ!」 子供っぽく舌を出すと、悠理は扉の向こうに消えていった。 一人残された清四郎は目を閉じた。翻る悠理のスカートの裾が、鮮明に浮かび上が る。それと同時に、妙に燃え上がる己の恋心も感じた。 (悠理、君は僕のことが好きだ、間違いなく) ――これから、彼女にそれをどうやって自覚させれば良いのか。それが問題だ。 思案する清四郎の頭上を、カラスがカーカーと飛んでいった。 BACK はいはいはい!ナンデスカ、この話はー!オラらしいっちゃ、オラらしいか!? 取り合えず、オラは腐女子でもあるということを、告白しておきましょう。 あと、WINちゃんネタが分かる人がどれくらいいるのかも、気になるところです。 |