[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

恋人が変質者 2



 纏わりついてくるお騒がせチルドレンを振り切って、清四郎は悠理の部屋へ向って走
っていた。
 冷静になった頭で考えると、とんでもない危機なような気がする。

 ――嫌だ……、別れたくない!まだキスも○○○もしてないのに!!

 理由がちょっと間違ってる清四郎。


 悠理の部屋の前に来ると、ドアノブに手を掛けて回そうとしたが、中から鍵を掛けてい
るようで、開かない。
「悠理、開けろ」
 トントンとノックをするも、返答はない。
「頼む、話を聞いてくれ……」
『イヤだ!帰れ、この変態ヤロー!!』
 ようやく返事があったと思ったら、変態呼ばわり。
 
 悠理と付き合う前の話なのに……。変態ヤローなんて……。

 しかし、悠理が怒るのも無理はない。自分の不用意な発言が悔やんでも悔やみきれ
なかった。
「……分かった、今日のところは帰ります」
『……』
「それじゃあ、また明日」
 清四郎はドアに背を向けた。


 その時、悠理はそのドアに張り付いていた。清四郎が去っていく足音が聞える。
「なんだよ……帰るのかよ!」
 自分で帰れと言っておきながら、悠理は憤った。なんで、そんなにあっさり諦めるのさ
てなものである。
「ふんッ……いいもん!清四郎なんかいなくっても、クリスマスは楽しいもんねーっだ」
 ドスドスと足音荒く、悠理はベッドへ近づいていき、倒れこんだ。
 目を閉じると、さっきの清四郎の姿が浮かんできた。
 案外、似合ってたな……、サンタの格好。ちょっと可愛かったよ。
「へへっ、変なの……」 
 笑いながら、涙が頬を濡らした。あんまり意地っ張りな自分が悲しい。
 清四郎は悪くないと、分かっている。
 こんなに、好きなのに。苦しいくらい恋してるのに。
「うえ~……」
 枕に顔を埋めて嗚咽を漏らしかけたとき、カタンという音が何処からかした。
「うん?」
 顔を上げて窓を見遣った瞬間、悠理は目を疑った。

「おっ、お前、なにやってんだよおおおお」

 なんと、悠理の部屋の小さなバルコニーに、清四郎がサンタクロース姿のままで立っ
ていたのだ!ここは三階。おまけにバルコニーには、雪が山のように積もっている。

(こいつ、アホだ……)

 『苦しいくらい恋してる……』とか、彼に対して思ってしまったことを悠理はちょっと後
悔した。   
 呆れる彼女の前の窓越しに、清四郎は腕組みしてガタガタと震えている。
『早く開けてくれ、このままじゃ凍死する!』
「へーへー」
 鍵を外して窓を開けてやると、清四郎は倒れこむようにして悠理に抱きついてきた。
「お、コラ!!」
「さ、寒……」
 カチカチカチと歯が鳴っている。相当寒かったらしく、ぎゅーっと抱き締める腕に力を
込められた。
 悠理は赤面した。
「ちょ、ちょっと待て!寒いんならストーブの前に行けよ」
「……悠理がいい」
 昨日まで手も繋いだことがなかったのに、今日はもう二回も抱き締められてしまった。
 て、照れるぜ。
 わざとらしい低い声で悠理は言った。
「お前、どうやってここまで来たんだよ」
「そこに木が生えてるじゃないですか。それを登ってきたんですよ。木登りなんかしたの
何年振りだろう」
「随分と、無茶するよなあ」
「悠理のためなら、どんな……」 
 そこまで言って、清四郎は抱く腕を緩めた。少し悪戯っぽい目で、悠理の顔を見下ろ
している。
「あんまり余計なこと言うと、また嫌われちゃいますね」
「……」
 悠理は彼の胸に頬を摺り寄せた。
「嫌わない」
「……本当ですか」
「うん」
「絶対に?」
「絶対に」
「そうか……良かった」
 清四郎の冷たい指が悠理の顎に触れた。
「すんごい、冷えてるんだけど」
「雪の積もった木を登ってきたからな」
「かじかんでるよ……」
「そうですね」  
 すい、と顔を上げられて、清四郎と目が合う。
「悠理……」
 近づいてくる彼の瞳。

(清四郎の肌って、きれ~……)

 綺麗。

「あっ、そーだ!!」
 悠理は清四郎を突き飛ばした。
「おっとっと……何するんですかあ!」
 後ろによろめきながら、清四郎は情けない声を上げた。
「やっぱり、悠理ってこうなんだよな。はーあ」
 がっかりしている清四郎にも気付かず、悠理は机の引き出しをごそごそ漁っている。 
「清四郎にプレゼントがあるんだよ♪」
「プレゼント……」

 ガーーーーン!!!

 清四郎は紙切れのように真っ白になった。
 悠理へのプレゼントを買うのを、すっかり忘れていたことに気が付いたのだ。
「……な、なんということだ」
「え、なんか言った?」
「いやッ、なんでもない」
 慌てて首を振る。ここでバレたら、また機嫌を損ねかねない。
 
 ど、どうするどうする、清四郎……。
 ここは、やはりあのベタなネタでいくしかないのか!?

 悩んでいると、悠理がぴょんぴょん飛び跳ねてやってきた。
「はいっ、プレゼント」
 両手に小さな長方形の包みを乗せている。
「あ、ありがとう」
「開けてみてー♪」
 さっきまでの不機嫌はどこへやら、ウキウキしているその表情に、清四郎の緊張は増
す。プレゼントを忘れたなんて、絶対言えねえええ。
「嬉しいなあ、どんなプレゼントだろう」
 取り合えず平静を装って包みを丁寧に開けていくと、金色の細かな細工が施された
ブックマーカーが入っていた。
「これは……」
「清四郎って、本好きじゃん?だからさあ、いつも使ってくれたらいいなあ……なんて。
綺麗だろ、それ」
 照れまくっている悠理のはにかむような笑顔に、清四郎は心臓撃ち抜かれた。

 悠理、悠理……愛してる!!

 ガバッと抱きつこうとすると、素早く避けられてしまった。びたー、と壁に激突する清四
郎。
「な、なぜ逃げる」
「あたし、まだプレゼントもらってないもん」
 こういうときだけ、物覚えがいいんだから……。壁から顔を剥がしながら、清四郎は苦
い顔をした。
「プレゼント……僕のプレゼントが欲しいですか」
「うん」
「もしかしたら、悠理のお気に召さないかもしれませんよ」 
「大丈夫だって。清四郎のくれるものなら……なんでも宝物だよ……」
「そうですか……。じゃあ、用意するので、ちょっと後ろを向いていてもらえますか」
「わかった♪」
 悠理がこちらに背中を向けると、清四郎は傾いた帽子と、よれた襟を直した。
 こほん、と咳を一つする。
「用意ができました。こっちを向いてください」
「はーい」
 振り向いた悠理が見たものは……、

「プレゼントは……この『僕』だ!!」

 両手を広げて立つサンタ清四郎の姿。悠理は目を見開いた。
「え!?」
「今日一日、お前に僕をあげよう!」
「は、はあ?い、いらんわ!!」
「遠慮することはありませんよっ」
 両手を前に出し、体一杯使って拒否する悠理に清四郎はツカツカと歩み寄った。そ
の異様な迫力。
 肩を掴まれて、妙に真剣な目で顔を覗きこまれると、背後のベッドが急に存在感を増
したように思える。
「怖く、ないから……」←お前はアンドレか。
「いや、怖いから!お前の顔、すっごい怖いから!!」
「ええい、大人しくしないか!!」
「うぎゃー、やめろおおーーー!!」

 ――暗転。



「あれ、清四郎くん、その顔はどうしただかね」
 前方からやってくる万作に気が付いた清四郎は、咄嗟に痛む右頬を押さえた。
「いえ、ちょっと……」
 はっはっは、と優等生スマイルを浮かべたものの、口元が少し引き攣った。
「ひどい傷だがや。タマとフクにでも引っ掻かれただか?」
「ええ、まあ。そんなところです」
 曖昧に肯定しながら頭の中で、「その飼い主にやられました」と付け足した。

 
 苦い思いを抱きながら門をくぐる清四郎の背中を、悠理は窓から見詰めていた。


 ――クリスマスなのに結局、キスも何もできなかった……。

 
 寒空の下、どちらのものとも分からない呟きが、風に乗って流れていったのでした。 

  
 


 


 
夜中に書くと、やっぱりテンションが変だ……。
 魅録だけじゃ可哀想なので、清四郎も暴走させてみました(はぁと)

back