魅録の片思いから



 美童も、清四郎も童貞ではない。だが、魅録は違う。大切な人のために純潔(笑)をずっ
と大切に守り続けている。
 彼の初恋は十四の時――。
 
 
 その日、彼は急いでいた。一体どんな用事があったのかは忘れたが、とにかく急いでい
たのだ。
 早足で雑踏を進んでいく中、魅録の視界に一人の少女の姿がはいってきた。

 はっ。

 と、したものだ。何せ美しい子だった。纏う空気の色まで見えるような気がした。
 見蕩れかけたとき、彼女の体がふらりと車道の方へ傾いた。

(!!)

 何かを思う暇もなく、魅録の手は彼女の腕を掴んでいた。



 放課後の生徒会室。他の五人はまだ来ておらず、魅録は一人窓際に立ち、中庭の落葉
のさまを眺めていた。

(ああ、野梨子……俺の永遠の日本人形)

 魅録はため息をついた。
 十四の頃からだから、片思い暦早五年。途中、異国の王女との恋も経験したが、終わっ
てみれば、やはり野梨子への想いが燻り続けていた。
「野梨子サン……」
 愛しい人の名前を呟くと、背後のドアが開いた。

「!!」

 魅録の第六感が働いた。この抹茶色のオーラは野梨子!!
 果たして、振り返るとその野梨子姫が入ってくるところだった。幼馴染の彼と一緒に。
「あら、魅録。早いですわね」
「ん、ああ。実は六限目が」
「さては、授業フケたとか」
「ちげーよ!!つか、いきなり割り込んでくるなよ!!」
「それはスミマセン」
 清四郎は頭を下げると、給湯室へ消えていった。どうやら彼なりに気を利かせたつもりら
しい。彼は魅録が野梨子に片恋していることを知っている。
「……いや、六限が自習だったからさ。ここで時間潰してたンだ」
「まあ、そうでしたの」
「厳密に言や、サボりには違いないけどな」
 決まり悪げに頭をかくと、野梨子はくすくすと笑った。まるで鈴が転がるような声だ。

(な、なんて可愛いんだ!!可愛すぎる!うぐぁああ〜)

 片手で口を隠すところがイイ。目を細めてもキラキラ瞳が輝いているのが分かるのが、た
まんない。魅録は悶えた。
「えへへ」
「うふふ」
 なんて笑いあっていると、バターーン!!と勢いよくドアが開いた。悠理である。
「あー、腹減ったー!」
 バタバタと入ってきて、テーブルにボスンと鞄を置いて、またもやバタバタと給湯室へ走
っていく。まったく歩く騒音公害だ。

「せーしろーちゃん、なにしてんのお」
「……もうちょっと、静かに行動できないんですか?」
「うっせ!あ、このクッキーもらっちゃお」
「それは駄目だ。理事長から頂いたんだから、あとで皆で食べるんです!」

 魅録と野梨子は顔を見合わせた。
「本当うるさいヤツだな」
「でも、清四郎は嫌がってないみたいですわ」
「ペットに懐かれれば、そりゃ誰だって嬉しいさ」
「……それだけかしら」
 ふと野梨子は真面目な表情になって、給湯室の方を見やった。

(ま、まさか!!)

 魅録は愕然とした。まさか、野梨子は清四郎が好きなのでは!?
 実際、野梨子が裕也と恋に落ちるときまで、魅録は野梨子の相手に清四郎を疑っていた
のである。いや、魅録に限らず、今だって学園の大半の生徒は二人をそういう仲だと思っ
て見ているに違いない。
 とにかく、清四郎と野梨子は並んでいる姿が絵になる。まるで優美な日本画から抜け出
してきたような気品があり、声を掛けるのが躊躇われるほど、完璧な組み合わせだった。
幼馴染というのも、出来すぎている。野梨子や清四郎のような素敵な隣人など、そうそうい
るものではない。
 もし、もしも、と魅録は考える。もしも自分と野梨子が一緒にいたら、人はどんな風に思う
のだろうか。妥当なところでは、チンピラと絡まれたお嬢様というのがあるかもしれない。あ
とは……思いつかない。

(所詮、俺と野梨子なんて、何の接点もない通り過ぎるだけの関係なのかも)

 不意に暗澹たる気持ちに襲われて、魅録はポケットから煙草を取り出した。
 すぱー、と煙を吐き出すと、ほっと気持ちが落ち着く。齢十九にして、オヤジくさいもので
ある。
 野梨子はつぶらな瞳で、赤マルの箱を見つめた。
「煙草って、そんなにイイものですの?」 
「ん?まあ…ねえ。精神安定剤みたいなもんだな」
「……私にも、吸わせてもらえません?」
「はあ?」
 魅録は耳を疑った。そんな……。野梨子がヤニ吸いたいってえ?
「いけません?」
「いや、その」
 駄目!と言いたかったが、一瞬躊躇したとき、

「駄目だ!!」

 という鋭い声がどこかから飛んできた。はて、どこから?見回すと、給湯室から清四郎が
ツカツカと早足でやってきた。
「野梨子、煙草なんて絶対吸うんじゃない!!!」
「う」
 魅録は絶句した。コイツ、俺たちの会話をずっと盗み聞きしていたのか?なんという地獄
耳だ……。
「あら、清四郎には関係ありませんわよ」
「関係あります!!煙草なんて吸ったらね、声はガラガラになるし、息は臭くなるしで良い
ことありませんよ!!」
 ぐさぐさ。清四郎の言葉に魅録は密かに傷ついた。だが、野梨子が煙草を吸うのが嫌な
のはこちらも同じだ。
 魅録は言った。
「ま、そうだな。野梨子に煙草は似合わねーよ」
「魅録……」
 な、なんだなんだ!?その寂しげな瞳は!俺が悪いのかい、ベイビー?
 魅録の胸がきゅんと痛んだ。
「あなたも、清四郎と同じことを言いますのね。私だって、ずっと吸うつもりはありませんわよ。
ただ一度経験してみたいなと思って」
「甘ーーい!!」
 清四郎だ。
「甘すぎます、野梨子。煙草ってのは、常習性があるんですよ。一度のつもりが、ずるずる
と止められないもんなんです」
 野梨子はキッと清四郎を睨んだ。
「清四郎は黙っててくださいな」
「むっ」
 ピシャリとやられて、さしもの清四郎も黙った。幼馴染の不思議なパワーバランスである。
「ねえ、魅録。一本だけでよろしいの。お願いします」
「の、のりこ」
 キラキラリン☆と星のような瞳で見つめられた魅録はフラフラと箱から一本取り出し野梨
子に渡した。
「魅録!」
 もう清四郎の言葉も耳に入らない。今の魅録の心を動かせるのは野梨子だけだった。
「こう持って……火、つけてやるから」
「はい」
 細い野梨子の指に挟まれた煙草は、妙に淫靡なものに見えた。
「まったく、もう」
 清四郎は呆れ果てたようで、もう止めようとはしなかった。

 魅録がライターをつけると、二人の間で小さい炎が燃え上がった。まるで、悪戯してる子
供みたいに二人はくすりと笑った。
「なんだか緊張しますわ」
「あんまり煙を吸うなよ。飲み込まないで、すぐ吐き出すんだ」
「ええ」
 赤く燃える煙草を野梨子は口にくわえた。

 ……すー……。

「……うっ……」
 眉をしかめた野梨子は煙草を口から離して、けほんけほんと咳き込んだ。
「やっぱな」
 苦しげな野梨子から煙草を受け取って、魅録はごく自然にそれを吸った。
「大丈夫か、野梨子。水持ってこようか?」
 ぜーぜーしている野梨子の肩を叩いたとき、魅録の脳裏で小さな光が閃いた。

(……ん?)

 これは……これは、もしや!
「間接キッス……ですな」
「げ」
 座った目で清四郎がこちらを見ていた。魅録の背筋を冷たいものが駆け上った。
「魅録くん、どさくさに紛れて、中々やるじゃありませんか」
「な、なんだよ!わざとじゃねえし!!」
「本当ですか?まさか最初っからこれが目的だったんじゃ……」
「んなわけねえだろ!!」
 さすがに腹が立って叫ぶと、清四郎は白けた顔をした。
「冗談です」
「……ったく、お前に凄まれると冗談とは思えないよ」
「なにを二人で騒いでるんですの?」
 ようやく咳が治まったらしい野梨子は魅録をきょとんとした目で見つめた。
「はうッ」
「いえ、魅録がね。野梨子と間接」
「余計なこと言うな!!」 
 ビシ!と魅録の手刀が清四郎の額に決まった。
「あいたた」
「まあ、魅録!何故いきなり清四郎を殴ったりするの」
「いや、これは」
「ひどいわ。清四郎は何もしていないのに」
「だから、その」
 ううう、どうしてこうなるんだ、と魅録が焦っていると、清四郎が「まあまあ」と割って入ってき
た。
「野梨子、魅録は僕の額に止まっていた蚊をやっつけてくれたんですよ」
 清四郎のナイスフォローである。
「魅録は勇気ある男です。蚊など物ともせず、僕をその魔の手から救ってくれました」
「まああ!」

(なんやねん、それ)

 引き攣る魅録だったが、野梨子は感動しているらしい。彼女もまた清四郎に負けず劣ら
ず変わり者なのだった。
「ごめんなさい、魅録。私すっかり勘違いしてしまって……。恥ずかしいですわ」
 もじもじと頭を下げる野梨子に、またもや魅録はノックダウンされてしまった。
「い、いや。いいんだ。確かに俺が悪かったんだ。蚊相手に手刀はやり過ぎだった。勘違
いされても無理はない」
「魅録、私を許してくださるの」
「野梨子、もちろんだ!」
 魅録は野梨子との絆が一層強まったのを感じていた。



 その夜、魅録の部屋で、清四郎はご満悦だった。
「今日は、僕のおかげで野梨子とドキドキ急接近でしたね」
「なにが、『僕のおかげ』だ。危うく嫌われそうになったぞ」
「間接キスなんて、卑猥なことするからですよ」
「ふん」
 魅録は赤面した。キスキスキス……、野梨子と(間接)キスしちゃったヨ!!
「うへへへ」
 クッションにぐりぐりと頭をこすり付けていると、清四郎がフンと鼻を鳴らした。
「これだから童貞は」
「なんだと!?」
「じゃあ、チェリーボーイですか?」
「うぐぐぐ」
 魅録は唸ることしかできなかった。童貞という事実は今更引っ繰り返しようがない。
 清四郎は顔色一つ変えないで、捲っていた文庫本をラグの上に伏せた。
「よし。あとは告白ですね」
「えー!!」
 魅録は頬を押さえて喚いた。
「それは無理!絶対ダメ!!だめ、絶対!!」
「何を弱気なことを言ってるんだ!」
「だって、そりゃまずいよ!!フラれたらどーすんだ!!俺、もう野梨子と顔合わせられね
ーよ!」
「こんの腰抜けがぁ!!」
 ゲシゲシと清四郎は魅録に蹴りをいれた。
「いで!!」
「そんなんだから、お前はいつまでたっても童貞なんだ!!」
「んだとぉ!?」
 蹴られたケツを抑えながら魅録は清四郎を睨み付けた。
「もう一回言ってみやがれ、このスットコドッコイ!!」
 松竹梅魅録、江戸っ子である。
「ええい、何度でも言ってやるわ。このピンクパイナップルめ!!」
「つうか、さっきと言ってること違うし!!」

 ドタン、バタン、ゴン、ガゴン!!

「やーねえ、一体何かしら」
「魅録ぼっちゃまと清四郎さんたら、離れで、なにをあんなに暴れているんだろうねえ」 

 ドカーーーン!!!

 はあはあはあ……。  
「魅録、男を見せるんです!このままじゃ、松竹梅の名が泣きますよ!ごほごほ……」
 爆発コントのように頭がチリチリになり、顔が煤で真っ黒の清四郎が言った。
 一方の魅録は、頭はチリチリになっていないものの、目や口の周りは痣だらけだった。
「わ、わかった。やってやる、俺は…野梨子に男を見せるぜ……ぐふっ」

 その夜、彼らの間で一体何が起こったかは、ご想像にお任せしたい。



 次の日、魅録は早起きして、まだ誰も登校していない早朝の学校へ忍んでいった。
「……白鹿。ここだ!」
 ぎ、とロッカーを開けると、バラバラバラと封筒が何通か落ちてきた。

(さすが、野梨子)

 生真面目な魅録はそれらの恋文をきちんとロッカーに戻した。清四郎辺りなら、きっと秘
密裏に抹消してしまうのだろうが。
 しかし、打つ手は打っておかねばならぬ。魅録は自身の手紙を野梨子の上履きの中に
忍ばせた。封筒の表には筆ペンで大きく「松竹梅魅録」と書いておいたから、これで捨て
られることはないだろう。
「はあっ」
 俄かに心臓がドキドキしてきた。後は放課後を待つばかりだ。


「魅録」
 手紙の中で指定しておいた体育館の裏へ向かおうと教室を出ると、清四郎がやってきた。
「いよいよですな」
「ああ」
「忘れ物はないでしょうね」
「ない」
「トイレには行きました?」
「行った(一時間に三回も)」
「手、洗いました?」
「洗った」
「宿題やりました?」
「……」
「歯ぁ磨きました?」
「うるさい!!」
 魅録はキーッと喚いた。
「何しに来たんだお前は!」
「いえ、その。はは……」
 と、笑う清四郎の後ろからヒョコヒョコと人間の姿が現れた。

「お、お前ら……」

 蒼白になる魅録の前で、悠理、可憐、美童の三人はへらへらと笑った。
「ごっめーん。やっぱり気になっちゃってさぁ」
「一人で告白しに行くなんて、水臭いじゃないのぉ〜」
「まさか野梨子のことが好きだったなんて、あたし全然気づかなかったぞ」
 魅録は清四郎の胸倉に掴みかかった。
「てめえ、よくも話しやがったな!!」
「す、すみません。でも大丈夫ですよ」
「何が大丈夫なんだ!!」
 いきりたつ魅録に、美童がウインクした。
「絶対、告白が成功するからさ!」
「なんでそんなことが分かる!」
「あら〜、分かるわよ」
 可憐も余裕のある笑みを浮かべている。
「だって、野梨子もずうっと、あんたのこと見てたもの」
「……マジか?」
「マジです」
 胸倉を掴まれたままの清四郎が真顔で言った。


 五人という大所帯で体育館の裏手に回ろうとしたとき、びたーんと美童が転んだ。
「あんた、なにやってんのよお」
「うう。靴紐が切れちゃったよー」
「不吉ですね」
 ちらりと清四郎は魅録を見た。
「うるさいな!関係ねーよ、そんなの」
 正直、ちょっと動揺していた魅録の隣で、今度は悠理が「あー」と言った。
「なんだよ!」
「あれ見てよ」
 トコトコと黒猫が五人の前を横切っていった。

「……」

 清四郎、可憐、美童の三人は無理やり笑みを浮かべようとした。が、上手くいかなくて引
き攣った笑いで顔を見合わせた。
「待て、待てー」
 悠理は黒猫の後を追いかけている。

「……もう、お前らついてくんな」

 魅録はギロリと四人を睨みつけた。
「こっからは俺一人で行く。いいな、絶対覗いたりするんじゃねーぞ!!」 
 さすがの気迫に、四人は「うん」と無言で頷くことしかできなかった。


 何だかついてこられると、ろくな事になりそうにないので、清四郎たちを引き剥がしてきた
魅録は、体育館の裏手、銀杏の木の下で野梨子を待った。
 ドッキン、ドッキン、ドッキン……。ドドドドドと心臓が血を送り出すのに必死になっている。
 どうなる、どうなるんだ俺。生きて帰れんのか、俺。教えておじいさん。
「はあはあ」
 上がる息を整えていると、さりと控えめな衣擦れの音がした。
「ごめんなさい、遅れてしまって」

 ――野梨子、キターーーー!!

「いや、俺も今来たところだ」
 さっと姿勢を正すと、頭に乗っていた銀杏の葉がヒラヒラと落ちた。野梨子がくす、と笑う。
「ふふ、嘘ばっかり。待っててくれたんですのね」
「……」
「それで、話ってなんですの?」
「うん……」
 もじもじと魅録は爪先で落葉を掻き分けた。乙女っぽくて、ちょっと気持ち悪い。
「俺さァ」
「はい」
「その……あの……」
「……」
 ちらっ、と野梨子を窺うと、彼女は優しく微笑んでいた。それはまるで聖母のようで、魅録
は今更ながら、惚れ直してしまった。

(よ、よしッ!言うぞ!!)

 ビシバシと自分の頬を叩いて気合を入れると、魅録は野梨子に向きあった。

 ――野梨子、俺、おまえのことが……。



「いや〜、どうなることかと思ったけどさ、良かったよなあ」
「本当よね。上手くいって良かったわあ」
 四人は、仲良く手を繋いで下校していく魅録と野梨子の背中を見送っていた。 
「青春って感じですね」 
 どこか他人事のような清四郎の言葉に、可憐は身を捩らせた。
「あ〜、私も青春したい!」
「腹減った」
 悠理は今にも鳴りそうな腹を押さえた。
「あいつらに付き合ったせいで、おやつ食いそびれちゃったからな」
「……そーね。悠理は色気よりも食い気よね」
「悠理に色気があったら、怖いよ」
「そりゃ、そうだわ」
 そんじゃ、マックでも行こー、と門へ歩き出す二人。清四郎も後を追おうとしたとき、後ろ
から制服の裾をぐいと引っ張られた。悠理が真剣な顔でこちらを見上げていた。
「なんだ?」
「あたし、もう魅録と遊んじゃいけないのかなァ」
「……今までみたいに四六時中一緒に居るってのは、できないでしょうね」
「そうか、そうだよな〜」
 少し項垂れる悠理に、清四郎は首を傾げた。
「寂しいんですか」
「……わかんない」
「魅録に恋してたとか」
 ストレートに聞くと、悠理はキッと顔を上げた。
「それはない!!……それは、ない……けど」
 拗ねたように唇を噛む悠理に、清四郎は自分と同じ感情を見た。だが、それを言うことは
しなかった。
 悠理の背中をぽんと叩くと、殊更明るい口調で言った。
「まあ、そのうち慣れますよ。隣に魅録がいないことに」
「そうかなあ」
「でなけりゃ、困ります」
 清四郎の言葉に、悠理は怪訝そうな顔をした。
「なんで、清四郎が困るのさ」
「そうですね。なんでかって言うと……」
 数瞬の間のあとで、清四郎は苦笑した。自分が今から言おうとしていることが、あんまり単
純な答えに思えたので。
「寂しそうな悠理より、明るい悠理が好きだから、かな」
 悠理の顔がポッと赤くなった。と、同時に肩がわなわなと震えだす。
「ばっ、バカヤロウ!……くさいこと言ってんじゃねーよ!」
 結構爽やかで良い台詞だと思ったのに貶されて、清四郎はムッとした。悠理に劣らず子
供っぽい。
「そうですね。撤回します」
「……撤回はしなくていいんだよ」 

(どっちだよ)

「ほれ」
 清四郎は楽しそうな前方の美男美女を指差した。
「さっさと歩かないと、置いてかれますよ」
「へいよ」
 恋愛に疎い二人は、そうしてぶらぶらと歩き出したのだった。




 


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