いけない生徒会室


「清四郎ちゃん、これもらってもいーい?」
「え」
 と、声を発したときはもう遅かった。弁当箱の海老フライが綺麗になくなっている。悠
理に取られた。
「……まだ、あげるって言ってないでしょうが!」
「だって、残してあったから」
「くっ……!」
 取っておいたのだと、清四郎には言えなかった。食い物に執着する人間だと思われ
るのは心外なので。
「だ、だからってねえ、他人のものを勝手に取るのはダメだろう」
 平静を装いながら言うと、悠理の顔が悲しげに曇った。

(いきなり、どうしたんだ?)

「どうした、また腐ったものでも食べたのか」
 清四郎が顔を覗き込むと、悠理の目から涙がぽたんと、テーブルに落ちた。
「うッ。な、な、なんで泣く!?」
「……他人じゃないもん」
「はい?」
 聞き返すと、悠理は顔を上げて、キッとこちらを睨んだ。

「他人じゃないもん〜〜!!」

 他人じゃない?はて?清四郎は混乱した。悠理が何を言いたいのか分からない。
「そ、そりゃ悠理と豊作さんは他人じゃないですよねぇ」何を言っているのだ。
「あたしと兄ちゃんじゃないってばぁ〜!」
 うえーん、と悠理は泣き喚く。
 大声で泣かれて、清四郎は焦った。つい声を荒げてしまう。
「いい歳した高校生が泣くんじゃないッ!もっと論理的に説明しなさい!論理的に!!」
 泣いてる彼女に向かって、論理的にとは、無茶を言う男である。
「誰と誰が他人じゃないと言うんだ、え!?」
「おまえと、あたしだってば〜!!」
「……なに?」
「バカヤロウ、この鈍感男!」
 悠理は泣きながら、空の弁当箱や箸を投げ付けてきた。
 カン、コン、カン。
 飛んでくる物が頭に当たるのも構わずに、清四郎は呆然としていた。そのうちに、口
元に笑みが浮かんでくる。

(……悠理も可愛いとこ、あるじゃないか……)
 ていうか、可愛すぎ!

 清四郎は、すんすん泣いている悠理の肩を抱き寄せた。
「そうか。僕がおまえのことを他人と言ったのが、気に入らなかったのか。バカだなぁ」
「だって、だって……」
「悪かった」
 柔らかな前髪をかき上げて、清四郎は悠理の額にキスした。
「あれは言葉のあやだ。僕と悠理は……」
「僕と悠理は?」
 見上げてくる悠理に向かって、清四郎は小さく微笑んだ。

「もちろん、恋人です」
「……って、さっきからなにやってんだよッ!!」

 バシ、と清四郎の顔に今度は雑誌が投げ付けられた。
「魅録、なにをするんですか」
 清四郎のすぐ目の前に魅録が座っていた。
「それはこっちの台詞だってえの!いきなりイチャイチャしやがってよー。うぜえんだよ」
「し、失礼な。それなら言わせてもらいますけどね。君たちの方がよっぽどイチャイチャ
してるじゃないですか!……まったく、はしたない!」
 清四郎が指さす魅録の膝の上には、野梨子が横座りで乗っていた。
「あら、清四郎ったら固いんですのね。いいじゃありませんの。だって、私たち愛し合っ
てるんですもの。ねえ、魅録」
「ん、そうだよな〜、ノリノリ♪」
「のっ、のりのり!?」
 親友たちの知られざる恋愛生活を垣間見て、清四郎は青ざめた。
「うっ、頭が痛い」
「清四郎、しっかりしてよう!」
「あ、ああ。そうだな……僕たちがしっかりしなきゃな」
 心細げな悠理に言いながら、清四郎は仮眠室のドアを見やった。

 きっと……あの中では……。 
 

 END



 

 
以前、掲示板で書いたものです。
 海老ふりゃーを取られる清四郎が書きたかっただけの話だったんですが、「ノリノリ」
が(私の中で)小ヒットでした。

  

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