拍手ッ



 芸術鑑賞教室でクラシックコンサートに来た聖プレジデント学園の生徒たち。
 何故か清四郎と悠理は隣り合って座っていた。
「清四郎の拍手って、変態ちっくだよな」
「し、失礼な。僕の拍手のどこが変態だと言うんです」
「やってみてよ」
 悠理に言われて、拍手をしてみる清四郎。
「普通じゃないですか」
「あ〜、それだよ、それそれ!!」
 悠理は心底嫌そうに顔を歪めた。
「そのさあ、成金のちょびヒゲ親父がやりそうな拍手!手を斜めに合わせるやつ!!」
「成金はお前だ」
「頼むから、それやめてくんない。あたし、背中がぞわぞわしちゃう」
「聞けば聞くほど、失礼ですねえ。それなら僕も言わせてもらいますけど、悠理の拍手
も相当変ですよ」
「どこがさ」
「やってみてください」
 清四郎に言われて、悠理は拍手をしてみた。
「どうだ!どこも変じゃないぞ」
「変」
 胸を張る悠理に向って、清四郎は今にも舌打ちしそうな勢いで吐き捨てた。
「まるで、シンバルを叩く猿のオモチャだ」
「誰が猿だ!」
「お前だ」
「き〜〜ッ!り、理由を言ってみろ!あたしのどこが猿なんだよ!!」
「こうやって、手を真横から合わせるでしょ。だから、動きがオモチャみたいなんですよ」
 清四郎が悠理の拍手を再現してみせると、彼女はうぎぎぎと歯軋りをかました。
「こんちくしょう!ムカつくう〜〜!!」
「そうやって怒ると、ますます猿に似てきますね」
「あんだとォ!」
 胸倉を掴もうとする悠理の手を受け止めて、清四郎は斜め前方に座っている魅録を
指差した。
「おっ、あいつを見てくださいよ」
「なんだよ」
「ヘッドバンギングしてます」
「すげえ!!」
 悠理は目を見開いた。 
「クラシックでヘドバンするなんて!さすが魅録だよ!!」
 ピンクの頭が4ビートに乗って、かっくんかっくんと動いている。

(もしかしたら、寝てんのか)

 そう思ったが、清四郎は黙っていた。
 流れていた曲が終わった。魅録の隣に座っている野梨子が拍手をしている。洗練さ
れた仕草で、大げさ過ぎず、かと言って素っ気無くもなく、程良く心証の良い拍手だっ
た。
「野梨子を見たまえ。あんな拍手ができれば一人前だぞ」
「無理」
「人間、やればできるもの。やってみなさい」
「えー」
「ほらほら」
 清四郎が急かすと、悠理はぎくしゃくとした動きで拍手をした。が、まだ脇が大きく開
いている。
「ダメだ、ダメだ!そんなんじゃ、まだシンバル猿だ!!」
「くっ……。わあったよ、こうか!!」
「ちがーう!!もっと脇を閉めるんだ!」
「こうですか、コーチ!!」
「そう、そうだ!指の先まで細心の注意を払って!バカ!!今にも死にそうな白鳥がそ
んな荒い息を吐くか!!」
「はいっ!」
 その時、二人の後ろからスーッと影が差した。

「君たちね……」
「せ、先生」


 こうして、二人の芸術鑑賞教室は幕を閉じた。



 


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以前、拍手のお礼に上げていた文です。いつの間にか拍手のサーバーが停止して
しまっていたので、こちらに移しました。