愛着



 ガジュマであるユージーンの喜怒哀楽は、ヒューマのメンバーにはいまいち分かりに
くい。ユージーンが、じっと、無言で何かを考え込んでいるようなとき、仲間は皆、ある一
点に注目する。それは……彼の尻尾。

 
 パーティーは、バイラスの少ない、比較的穏やかな草原を渡っていた。
「ねえ、ヴェイグ。ユージーンの尻尾って、嬉しいと、ぱーたぱーたするんだヨ」
「ぱーたぱーた、か……」
「なんだよ、ぱーたぱーたって。よく、わからねんだけど」
「ティトレイは、観察眼が足りないヨ!もっとよくユージーンのこと、観察しないとネ!」
「何が悲しくて、四十過ぎのオッサンの尻尾を観察しないといけねえんだよ」
 呆れたようにティトレイが言うと、すっとヒルダが話の輪に寄ってきた。
「マオの言いたいこと、私もよく分かるわ」
「そう言えば、ヒルダも尻尾があるんだよな?」
「ええ……って、どこ見てるのよ、ティトレイ!」
「あ?いや、み、見てない見てない!!おまえのケツなんて見てな……!!!」
 バリバリバリバリ!!突然、雷がティトレイの脳天に炸裂した。ばったりと倒れるティト
レイ。
「ティトレイ、正直すぎwww」
「死んだか……?」
「安心して、峰打ちよ……多分」
「いやー、まいったまいった」
 なんと、ティトレイは起き上がった!!
「まったく危なかったぜ、川の向こうで死んだばーさんが手ぇ振ってたもんな!!」
「ティトレイ、帰ってくるの早すぎだからwww」
「良かったわ、私、ティトレイが死んだらどうしようかと思ったの」
「思いっきり棒読みだな、ヒルダ……」
 つっこむヴェイグに、ヒルダはこほんと咳払いをした。
「話を戻すけど、尻尾って結構感情が表れるものなのよ」
「やっぱり、そうだよネ。嬉しいときは、ぱーたぱーたでしょ。苛々してるときは、ぱーた
ぱたぱたーぱたー……」
「ますますわからねえーーー!!!」
 頭を抱えるティトレイの横で、ヴェイグは眉をしかめた。 
「ぱーたぱたぱーたーたー……???」
「違うわよ、ぱーたぱたぱたーぱたー、よ」
「だから、わからねえって!!」
「ぱーたぱたーぱぱーた……???」
「そうじゃなくて、ぱーたぱたぱたーぱたー、でしょ」
「この人たち、ちょっと変www」
 そのとき、マオの目に衝撃的な事実が飛び込んできた!!
「えっ……なにあれ!?」
「どうしたんだよ、マオ!!」
「マオたん、なにがあったの!?」
「マオたん……???」
「みんな、あれ……ユージーンの尻尾を見てヨ!!」
 ティトレイ、ヒルダ、そしてヴェイグの三人は、マオに言われるまま、前方を歩くユージ
ーンの尻尾を見た。それは、ぱーたぱーたと揺れている。
「わかったぞ!!あれが『ぱーたぱーた』ってヤツだな!?」  
「ええ、まさしく『ぱーたぱーた』だわ」
「あれが、『ぱーたぱーた』……」
「ぱーたぱーたに、そんなにこだわらなくていいからwww」
「むッ!?おい、ヒルダ!!ユージーンの尻尾袋が妙にオシャレになってるぜ!!!」
「あら、本当だわ!」
「(ヒルダ限定かよ……)水玉模様、か……」
「えー、あの尻尾袋どうしたんだろう〜。前の尻尾袋捨てちゃったのかナ〜、ボクがプレ
ゼントしたやつなのに〜〜〜」
 泣きそうな顔をするマオ。ヒルダはさりげなく、彼の傍に寄り添った。
「マオ、そんな心配することないわよ。ユージーンが、あんたのプレゼントを簡単に捨て
るわけないじゃない」 
「そ、そうかな……」
 円らな目で見上げるマオに、ヒルダは微笑み返す。
「そうに決まってるわ(マオたん萌え……)」
「ヒルダ〜、ありがとう!!」
 マオは感激のあまり、無邪気にヒルダの腰に抱きついた。すると、足元から、ぬののの
のと急に植物のツルが伸びてきて、マオの足首に巻きついた!!
「おまえ〜、なにやってんだ!!!」
「うわお!ティトレイのジェラシー発動!!」
「男の嫉妬は醜いな……」
「ティトレイ、やめなさいよ!!」
「イヤだね!マオがおまえから離れるまで、おれのフォルスは静まりゃしねえんだ!!」
「うわーーーっ!」
「マオたん!!」
「あーあ……(クレアに会いたいな〜)」
 見る間にツルは伸び、全身グルグル巻きにされたマオは空中まで持ち上げられてしま
った。
「うわーん、怖いよ〜!ヒルダー、ヴェイグー、助けて〜!!」
「マオ、今、助けてあげるわ!……ちょっとティトレイ!!」
 ヒルダはティトレイの前に歩み出た。
「そんなにマオを苛めたいなら、代わりに私を苛めればいいわ!!」
「えっっ!!?」
 ティトレイの顔色が変わった。明らかに変わった。
「ひ、ヒルダを……苛めていい……のか?」
「ええ、そうよ!マオの苦しむ姿を見るくらいなら、私が苦しんだ方がマシよ!」
「…………」もんもんもんもんもんもん。
「ティトレイ、落ち着け……」
 ヴェイグの声も最早、届かない。ティトレイの意識は既に妄想の世界に旅立っていた
のである。
「うおーーーーッ!!!!」
 いきなり叫んで、ティトレイはばったりと倒れた。本日二回目の死出の旅。
 彼が叫ぶと同時に、マオを捕まえていたツルは、ひゅるひゅるひゅると力を失い、マオ
は無事、地上に戻ってこられた。
「ああ、もうビックリした!でも、ヒルダのお陰で助かったヨ」
「お安い御用よ」
「ティトレイが死んでいるようだが……」
「大丈夫よ、ヴェイグ。ほらそろそろ……」
「わははは!また死ぬところだったぜ!!」
 なんと、ティトレイは起き上がった!!
「今度は三途の川を渡っちまったけどよ、なんとか泳いで帰ってこれたぜ!」
「泳いでってwwwしぶとwww」
「話を戻すけど、ユージーンの新しい尻尾袋は、いつ買ったのかしらね?」
「この間、バルカに行ったときに買ったのだろうか……」
「もしかして、ファンからのプレゼントだったりしてな!!ユージーンってマダムキラーら
しいしよ」
「えーー!じゃあ、ボクはマダムに負けたってこと!?」
「そりゃあ、ガキよりマダムの方がいいんじゃねえ?」
「ひどいヨ、ティトレイ!!」
「確かに子供よりはマダムの方がいいかもな……(ぼそり)」

「おい、おまえら何をさっきから騒いでいるんだ?」

 気が付くと、ユージーンとアニーが傍に来ていた。この二人、和解してからというもの、
妙に仲が良い。マオはユージーンに飛びついた。
「ねえ、尻尾の袋、いつの間に変えたのサ!?」
「ん、ああ、これか……」
 と、ユージーンはアニーと笑みを交し合った。アニーがはにかみながら言う。
「実は、これ、私がプレゼントしたの」
「えっ、アニーが!」
「アニーがユージーンに……良かった……本当に良かった」
 二人の仲がそこまで修復されていたのかと、ヴェイグは静かに感動した。だが、隣の
ティトレイはぎゃーぎゃーとうるさい。
「ええ、マジかよ!!アニーがユージーンにねぇ、信じられねえな!!ま、何にせよ良
かったぜ!やっぱ、仲良きことは美しき哉って言うし!!な、ヒルダ!!」
「あんた、少しは黙りなさいよ」
「なんだよ、ヒルダだって内心喜んでるくせに!このこのぉ!!」
「いやだ、気安く触らないでよ!」
「今日は良き日だな……(パァァ)」 
 三人のことは放っておいて、マオはぽつりと呟いた。
「そっか……アニーのがあるなら、もうボクのはいらないよネ……」
「ま、マオ?」
 アニーは目を見開いた。マオの大きな目から涙がぽろぽろと零れていたからだ。
「ごめん、ごめんネ。アニーが悪いんじゃないんだ、ボクが子供だから……」
「マオ、男はそんなに簡単に泣くものじゃないぞ」
「うん、わかってるヨ、だけど、だけどサ〜」
 目を擦るマオの肩に、ユージーンは手をしっかりと置いた。
「泣く必要は無い。おまえからもらった袋は、ちゃんとここにしまってある」
 と、ユージーンは自分の荷物入れを叩いた。
「宿に着いたら、洗濯しようと思ってな……。マオからもらった大事な尻尾袋だからな、
綺麗に使いたいじゃないか」
「本当に?」
「本当だ。アニーのと変わりばんこに使わせてもらうつもりだ。なあ、アニー?」
「そうよ、マオ」
 アニーはマオにハンカチを差し出した。
「だから、泣かないで」
「……うん」
 マオは受け取ったハンカチで頬を拭うと、アニーとユージーンを代わる代わる見て、
「ありがとう」と、笑顔を浮かべた。

 パチパチパチパチ!!!

 突如として湧き起こる拍手。見れば、外野の三人が揃って手を叩いていた。
「いや〜、良かったなあ!!三人とも、本当の家族みたいだったぜ!!」
「マオ……おめでとう」何がだ。
「マオもアニーも、ユージーンも……おれは嬉しいぞ……」
 目を潤ませるティトレイ、ヒルダ、ヴェイグに、ユージーン、アニー、そしてマオもよく分
からないが、胸が熱くなってきた。
「うん、みんなのおかげで、ボク、ユージーンとアニーのこと、もっと好きになれたヨ!」
「そうだな、おれたちの絆はより深くなった……」
「はい、本当に!」
「よーし、みんなで万歳三唱だぜ!!」
「おおッッ!!!」←ヴェイグ。

 ばんざーい!ばんざーい!ばんざーい!!

「って、なんで万歳しなきゃいけないのよ……!!」
「どわーーっ!!」
 またもや雷の直撃を受けたティトレイは、ばったりと倒れた。
「ティトレイがまた死んだようだが……」
「心配には及ばないわ、ほら」
「あー、まいったまいった!今度は閻魔大王の前まで連れて行かれたけどよ、なんとか
逃げてきたぜ!!」
「ティトレイwww」



 


 
 

 
これが私のノリです!!


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